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京都地方裁判所 昭和60年(ワ)2532号 判決

原告 滝井繁治

外九名

右原告ら訴訟代理人弁護士 別紙原告代理人目録記載のとおり

右原告ら訴訟復代理人弁護士 長谷川彰

被告 竹本成幸

右訴訟代理人弁護士 中東孝

同 大西淳二

同 神垣守

被告 鈴木英機

同 加藤俊和

右両名訴訟代理人弁護士 佐々木哲藏

同 佐々木寛

同 泉裕二郎

被告 杉原次生

主文

一、別紙被害一覧表原告欄記載の各原告に対し、同表被告欄記載の各対応被告らは、各自同表請求金額欄記載の各金員及び右各金員に対する昭和六〇年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、この判決は、仮に執行することができる。

事実

〈省略〉

理由

一、被告らについて

1. 被告竹本が、昭和五九年九月一日から豊田商事が破産宣告を受ける日まで、同社京都支店の支店長の職にあったことは原告らと被告竹本との間では争いがなく、被告鈴木、同加藤及び同杉原が、それぞれ豊田商事の元社員であったことは、原告らと右各被告らとの間で争いがない。

2. 右争いのない事実と弁論の全趣旨によれば、被告らは、別紙被告一覧表記載のとおり豊田商事に就職し、同社が破産宣告を受ける日まで在職していたこと、被告竹本及び同鈴木が同表記載のとおり京都支店において支店長ないし課長の職にあったことが認められる。

二、そこで、豊田商事の本件商法の違法性について、以下検討する。

1. 純金ファミリー契約について

(一)  豊田商事のテレホンレディが無差別電話をかけて見込みのありそうな客を営業担当者に知らせること、営業担当者はその家を訪問して、金地金に対する投資の有利性を説いてその購入を勧誘すること、更に、客が購入する金地金を豊田商事に預けると購入価格につき一年間で一〇パーセント、五年間で毎年一五パーセントの割合による賃借料を支払い、一年ないし五年の契約期間経過後には、預かった金地金は返還されるから、もっと有利である旨説明して、純金ファミリー契約への加入を勧めることは原告らと被告杉原との間では争いがなく、右争いのない事実と〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、〈証拠〉中右認定に反する部分は前掲その余の各証拠に照し、にわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  豊田商事は、昭和五六年四月二二日設立されたが、同社は、金地金の現物取引とともに、同年春以降、純金ファミリー契約証券の取引を始め、右取引は、同社が破産宣告を受けるまで、同社の中心的な営業活動となった。

(2)  豊田商事の営業社員は、顧客の家を訪問し、金の三大利点というものを説明して、金地金に対する投資の安全性、有利性を説いて、金地金(中には、白金等のこともあったが、その殆どは金地金であったから、以下では金地金として説示していく。)の購入を顧客に勧め、顧客が買う気になったところで、金地金を自分で保管するのは大変だから豊田商事に預けてくれれば有利に運用し、「賃借料」も前払すると説明し、金地金代金名下の金員を「賃借料」を差引いて豊田商事が預かり、証券記載の契約期間満了期日に金地金を返還することを内容とする純金ファミリー契約を締結することを強く勧め、結局同契約を締結させて、金地金代金を受け取りながら、顧客に対しては、純金ファミリー契約証券のみを渡し、金地金を交付しないのが殆どであった。

(3)  純金ファミリー契約とは、顧客が、主に豊田商事から購入した金地金を、同社が、その顧客から、「賃借料」を支払って一定期間「賃借」するというものであるが、純金ファミリー契約書には純金の数量のみが記載され、当該純金を特定するに足りるだけの事項は何等記載されず、右期間経過後は、同種、同銘柄、同数量の純金を顧客に返還すれば足りることになっていた。そして、右「賃借期間」は、当初は一年ないし三年であって、「賃借料」もそれぞれ一〇パーセント、一七パーセント、二二パーセントであったが、豊田商事としては、後記3(四)で認定のとおりできるだけ顧客に金地金を返す時期を遅らせる必要があったので、昭和五八年七月ごろからは五年ものの純金ファミリー契約証券の売り出し、「賃借料」も毎年一五パーセントという高額にしてこの五年の期間の契約の締結を強く推進していった。そして、右純金ファミリー契約は、原則として中途解約することはできないことになっており、やむを得ない事情のため解約するときは、受領済みの「賃借料」を返還したうえ、取引価格の三〇パーセントの違約金を支払うこととなっていた。

(4)  豊田商事は右純金ファミリー契約に見合う金地金は購入しておらず、同社京都支店においても常時保管してあるのは見本としての金地金数キログラムのみであった。

(二)  右認定事実によれば、純金ファミリー契約においては、「賃借」される金地金は何等特定されず、返還時にもその個性は全く問題とされていないから、右契約は、賃貸借契約とは認められないのみならず、豊田商事は純金ファミリー契約締結時に、顧客から売買代金(ただし、前払賃借料を控除する。)を受領しながら、右契約締結後返還時期が到来するまでは、顧客に対しては、賃借料を支払っておれば足りるのであり、書面上は純金の賃貸借といいながら、実際は、同社は、金地金を保管しなくともよく、顧客に対し返還する必要が生じたときに初めて金地金を購入すればよいことになる。その一方で、顧客は、書面上金地金を購入したといっても現物は期間経過後でないと取得できず、契約時には、純金ファミリー契約証券を受け取るのみであり、右期間経過後に金地金の現物を取得できるかどうかは総て豊田商事の資力に依存することになり、顧客は極めて不安定な地位に置かれることになる。

2. 豊田商事のセールス手法について

(一)  右1で認められる事実と、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、〈証拠〉中右認定に反する部分は前掲その余の各証拠に照しにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  豊田商事においては、全社的にほぼ同一の方法、内容で、本件商法のセールス手法についての社員教育を実施していた。このため、セールスの手法については、個々の営業社員ごとに若干の相違はあったものの、その基本部分は皆同じであった。

(2)  豊田商事の営業社員は、同社に入社すると一週間ないし一〇日間程度の研修を受けることになっていた。研修の内容は、大まかにいって、豊田商事の業務内容、職制、金についての様々な知識、金の三大利点、顧客勧誘の技術、勧誘の実演等である。これらの研修は、支店長や部長等が行ったり、ビデオを上演することによって行われたが、勧誘方法の研修は、極めて具体的かつ詳細であり、それが繰り返しなされ、研修が終了した後も折に触れて、同僚、上司を相手に研修で教えられた内容を基本にしてセールス手法の修練を積んでいった。

(3)  豊田商事のセールス手法は具体的には概ね次のようなものであった。

豊田商事のテレホンレディは、まず、客に対し、無差別に電話をかけて金地金の話をし興味を示した客をチェックし、テレホン面談用紙というものを作成する。豊田商事は、主として本件商法の対象者を、一人暮らしで資産を有する老人、家庭の主婦等においていた。このため、右面談用紙を作成する際に、このような対象者であるかどうかを確認するべく、顧客の家族関係、資産状況、購入の意思の有無等も含めてできるだけ情報を収集し、これを右面談用紙に記載した。

このような面談用紙は、営業に回され、部長、課長を通して各営業社員に割り当てられる。営業社員は、この面談用紙に記載された客宅を昼頃から戸別訪問するが、まず、客宅へ入る前に必ず会社へ電話を入れる。客に対しては、世間話をしながら、顧客の警戒心を解き、とにかく客宅に上げてもらうように努力する。そして、一旦上げてもらったら契約を締結するまでは何といわれようと長時間居座って粘る。営業社員は、客の警戒心がとれるまで充分な時間をかけ、その間にそれとなく客の預貯金等の話をして客の資金を把握し、その後パンフレット等を示しながら金地金について説明をすることになるが、その際には金地金の三大利点(①純金は現金と同じであり、何時でも何処でもその日の相場で現金に替えられる。②純金には税金がかからない。③純金は値上がりが大きく平均すると年に二〇パーセントは値上がりするから他の利殖より有利である。)等の説明を中心に行い、純金の説明に顧客が理解を示してきたところで、クロージングという追い込みの段階に入る。この段階になって、初めて売り込みに入るのであるが、その際には、金地金の購入は、今行っている預貯金の移し替えをするに過ぎないとか、あるいは預貯金の目減りを防止する有効な手段であるというような点を非常に強調し、客の抵抗感を払拭するように努める。客が、「お金がない」、「忙しい」、「主人と相談する」等の逃げ口上をいった場合には、予めこのような場合を想定して教えられていた文句でこれを切り返し、拒絶できないように追い込む。また、嘘も方便であり、実害のない嘘は大いについてもよいとか、キャッチボールあるいは煽りという手法で客の気持を煽る手段とか、土下座する等の泣き落としの手法とかを研修の際に教えられていたので、これらの方法を用いて客が金地金を購入するように仕向ける。そして、客が購入してもよい気になったり、拒絶する態度が和らいだときには、一度会社を見てくれるように勧める。客が豊田商事の事務所(豊田商事の各支店、営業所は、いずれも各地の一等地にあり、豪華な設備、調度が備えてあって、客に一流会社の印象を植え付けた。)に来社すると、過剰ともいえるサービスをし、手練手管に長けた上司が同様のセールストークで客を説得し、客が金地金を購入するというまで帰宅させないような雰囲気の中で客を根負けさせて遂にその購入を決意させる。また、来社の時点で購入を決意している客に対しては、追加購入をさせるように努める(以上は「来社トーク」といわれていて、客に金地金を購入させるために常用されていた。)。

客が購入を決めると、代金の授受に移るが、大半は郵便局、保険会社、証券会社、銀行、信託銀行その他の金触機関から、払戻し、解約、借入れの方法により代金を調達することになる。その際には、営業社員が、客と手続に同行したり、営業社員が、印鑑、通帳等必要書類を受け取り、委任状等を徴したうえで手続の代行をする。

そして、代金の授受と相前後して純金ファミリー契約の勧誘に入る(この契約の勧誘は会社内で行うことも客宅で行うこともあったが、入社後間もない営業社員は客を来社させて上司に勧誘してもらうことになっていた。)。すなわち、金の現物をそのまま保管していても盗難の危険がある、豊田商事に預けると一年間で一〇パーセント、五年間で毎年一五パーセント(これは五年物の純金ファミリー契約を手掛けるようになってからの勧誘文句である。)の利息がつき、更にこの利息を前払する、返還時期がくれば金地金も確実に返還するので純金ファミリー契約は他の利殖手段より有利であると勧誘し、客が、純金ファミリー契約を締結するまで粘り強く勧誘し契約を締結させる。このように豊田商事は金地金の現物取引の安全性、有利性を強調しつつ、それに引き続いて純金ファミリー契約(契約書では「賃貸借」となっていることは前記のとおりである。)を締結させていたため、顧客の意識としては、自分は豊田商事に金の現物を預け、同社はこれをそのままの形で保管していると考えていた者が殆どであった。

(二)  右によれば、豊田商事は、主として本件商法の対象者を、通常金投資とは縁が無いと考えられる、一人暮らしで資産を有する老人、家庭の主婦等においていたところ、まず、テレホンレディによる無差別な電話勧誘により、このような対象者を予め選び出し、そこへ営業社員を派遣して戸別訪問をさせていた。営業社員は、前記のように入社後セールス手法については徹底的に研修を受けていたから、その勧誘方法は、基本的には同様であったと解せられるが、それによると、営業社員は、純金の三大利点を中心にして、純金に対する投資が如何に有利であるかを執拗に説明して、純金の購入を勧誘するのであるが、その際には、研修で教えられた様々なセールス手法を駆使し、顧客の正常な判断能力を失わせ、金の購入をさせていた。そして、顧客が金の購入を決意すると、今度は純金ファミリー契約を締結させる(これが豊田商事の最終の目的であったことは後記3記載のとおりである。)のであるが、この契約が金の現物取引とは全く異なるものであることについては何等の説明もなく、顧客は現物取引と同様の意識で契約していたと考えられる。ところで、純金の三大利点を始めとする前記のようなセールストークは金の現物取引においても真実とは言い難い内容であったが、純金ファミリー契約においては、その内容が前記1に説示のとおりであり、豊田商事の経営状況が後記3のとおりであることに鑑みれば、客観的には虚偽であったというべきものであり、このような内容で、金の現物取引を勧誘しながら、結局純金ファミリー契約を結ばせる豊田商事の本件商法は、極めて欺瞞的なものといわざるを得ない。

3. 豊田商事の経営状況について

〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  豊田商事は、訴外銀河計画株式会社(以下「銀河計画」という。)を通じて約一二〇社の関連会社と人的、資本的に密接に関連して豊田商事グループを形成し、国内のみならず、海外にまで営業活動を続けていた。最盛期における豊田商事の社員は約七五〇〇人、その一か月の給与、報酬だけでも約二五億円、グループ全体の社員は約一万数千人に達していた。豊田商事の収益の中には金の現物取引による手数料もあったが、それはごく僅かであって(そもそも、豊田商事は、それには重きを置いていなかった。)、その殆どは純金ファミリー契約を締結することによって入金された金員であった。

(二)  このようにして豊田商事が倒産までに顧客から導入した金員は、総額約二〇二〇億円に達した。この導入した金員のうち約五五〇億円は、金地金の賃借料名義あるいは解約によって顧客に返還されているが、残額は引き続き豊田商事が営業を続けるために必要な人的、物的費用に費やされたり、商品取引相場の投機資金に費消された。また、豊田商事では、本件商法の実行行為に寄与した功績によって会社幹部、営業社員などに報酬、賞金などの名目で法外な金員が分配された。この直接分配された金員の総額は六〇〇億円にのぼり、右金額に店舗賃借料などの経費を加えれば約八六〇億円にもなり、導入金額から顧客に返還された金員を差し引いた残額(一四七〇億円)のうち約六〇パーセントが一般経費に費消されていた。つづいて、豊田商事は、自らあるいは銀河計画等の関連会社を通じて、レジャー事業を中心に豊田商事グループ全体が多数の事業を経営しているように見せ掛けるために、採算を無視した投資を続けた。この総額は約五〇〇億円にのぼるが、この投資自体は更に豊田商事グループの人件費などの経費に費消されたほか、各事業は必然的に挫折する運命にあったものであるから、これら各事業から右投資額を回収することは大半が不能の状態であった。商品取引相場に投入された投機資金の額はその実態を把握しにくいが、約一一〇億円から一二〇億円にのぼるものと推定され、全額費消されつくされている。そして、豊田商事の比較損益計算書によれば、同社は、設立から倒産まで、一期といえども利益を計上したことはなく、損失を計上し続けていた。

(三)  豊田商事は、純金ファミリー契約の顧客を拡大するため、多数のテレホンレディと営業社員を雇い入れ、各社員に厳しいノルマを課す一方で、高額の固定給(一般の営業社員で月給二五万円ないし三〇万円)を支払うとともに、高率の歩合給(例えば、一般の営業社員の月額契約締結高のうち、四〇〇万円を越える部分について一二パーセントが、歩合給となる。ただし、金の現物取引の場合には、手数料のみが計算の基礎となった。)や管理職手当を支払っていた。しかも、昇格や降格の基準にも右のような営業成績が直結していた。その一方で、豊田商事は、各地の支店、営業所の所在場所として一等地のビルディングを賃借し、そのため多額の維持管理費も必要としたのであり、その総額は前記(二)のとおり収益に対し極めて高い割合を示していた。

(四)  右のように豊田商事の営業内容は、若干の金地金の現物取引と圧倒的多数の純金ファミリー契約証券取引であったが、純金ファミリー契約は、期限がくれば金地金を購入して顧客に返還しなければならないところ、高額の賃借料、人件費、事務所維持管理費等を支払い、その一方で、確実な収益事業を持たない豊田商事が、顧客に金地金を購入して返還するためには自転車操業的に新たな純金ファミリー契約を拡大していくしかなかった。しかし、豊田商事の資産内容は、少なくとも第三期(昭和五八年四月一日)以降は、いかなる意味においても、高率の賃借料を支払ったうえに、金地金ないし受入金を返還することができる状態になく、この方法では、いずれ破綻が来ることは目に見えていたので、豊田商事は、顧客への返還をできるだけ免れるため、まず、賃借期間五年間の純金ファミリー契約証書を昭和五八年七月頃から売り出し、新規の契約においては、この五年ものの純金ファミリー契約を締結することを推奨するとともに、従前の契約で期間の到来したものについても、なるべくこれで契約を更新させるようにした。そして、右期間の点を歩合給の支給基準上も区別する(期間一年ものの契約は新規にせよ、継続にせよ、五年もののそれの半分の率で評価する。)ことで、営業社員にもそのことを徹底させた。更に、昭和五九年夏頃からは、純金などの現物を返還する必要のないレジャー会員証券を売り出し、純金ファミリー契約証券をこのレジャー会員証券に切り替える商法を採用、推進したが、結局昭和六〇年七月一日破産宣告を受けることとなった。

4. 本件商法の違法性について

(一)  前記1ないし3の各認定事実によれば、豊田商事は、主に金投資に縁のない老人や家庭の主婦を対象に金地金の現物取引の安全性、有利性を執拗に強調することで、金地金を購入する気になった顧客に対し、豊田商事に金地金を預けるだけだから、現物取引と同様に安全確実であるかのような印象を抱かせて、純金ファミリー契約を締結させたのであるが、実際には、豊田商事には、金地金の現物はなく、純金ファミリー契約は前記のように危険性の高い契約であるのに、これについては何等の説明もせず、しかも、豊田商事の経営状態は前記のようにとても利益を計上できるものではなく、契約上の返還時期における金地金の引渡しが極めて困難ないし不可能であるのに、これが確実である旨誤信させて右契約を締結させたのであって、本件商法は違法というべきである。

(二)  更に、本件商法を推進するためにとられていた前記セールス手法は、金投資に縁のない人々を主に対象にして、客観的には虚偽であるセールストークを駆使して顧客に対し、不相当ないし不当な手段で影響を与え、金購入を決意させ、その後同人の資金を徹底的に拠出させていたものであり、そのセールス手法自体も社会的相当性を逸脱した違法なものであったというべきである。

三、原告らに対する具体的な不法行為について

1. 〈証拠〉によれば、請求原因4(一)(原告滝井に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2. 〈証拠〉によれば、請求原因4(二)(原告大杉に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3. 〈証拠〉によれば、請求原因4(三)(原告小林に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

4. 〈証拠〉によれば、請求原因4(四)(原告村上に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

5. 〈証拠〉によれば、請求原因4(五)(原告徳本に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

6. 〈証拠〉によれば、請求原因4(六)(原告橋詰に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

7. 〈証拠〉によれば、請求原因4(七)(原告冨永に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

8. 〈証拠〉によれば、請求原因4(八)(原告青山に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

9. 〈証拠〉によれば、請求原因4(九)(原告竹林に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

10. 〈証拠〉によれば、請求原因4(一〇)(原告釜渕に対する不法行為)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

四、被告らの責任について

1.(一) 豊田商事の本件商法が、違法であったことは前記認定のとおりであるところ、被告らは、いずれも豊田商事の従業員であったから、純金ファミリー契約の内容を熟知していたと認められる。とすると、被告らは、豊田商事が契約高に見合う金地金を保有している必要がなく、また、実際にそれだけの金地金を保有していなかったことを認識していたと推認できる(京都支店には金地金は数キログラムしか置いていなかったことは前記認定のとおりである。)。そして、〈証拠〉によれば、同人は、上司である支店長から、純金ファミリー契約によって導入された資金は、豊田商事が、投資、運用し、新たな利益を得ると聞き、同人もそう思っていたこと、しかし、その投資先については豊田商事の関連会社であろうと推測するだけで具体的には何も知らなかったことが認められ、これと弁論の全趣旨によれば、豊田商事の他の従業員もほぼ同様の認識であったと推認できる。

(二) しかるに、被告らは、豊田商事から教えられた純金の三大利点を始めとする前記二2のようなセールス手法に従って、純金ファミリー契約の締結を顧客に迫っていたのであるから、前記二2(二)のような豊田商事のセールス手法の欺瞞性についても認識し得たというべきである。そして、被告らは、豊田商事の従業員として、同社が、多数の従業員を雇用し、その高額の給与体系により、多くの従業員が、多額の給与を受け取っていたこと、同社の支社や営業所が、各地の一等地にあり、その維持管理費も高額であることを認識していたと解せられるところ、これらの他に、純金ファミリー契約における賃借料、賃借期間の満了による顧客への金地金の返還を誠実に履行して企業として存続するためには、極めて、高い収益を安定して得る必要があるところ、右(一)によれば、被告らは、その収益事業の具体的な内容を全く知らないと推認できる。

(三) ところで、〈証拠〉によれば、豊田商事の商法は、マスコミにおいては昭和五六年末頃から、「現物まがい商法」として問題にされ始め、昭和五七年九月頃から昭和五八年一月頃にかけて商品取引所において大掛かりな仕手戦を演じたことが新聞紙上で報道されたこと、同年中頃からは、豊田商事と純金ファミリー契約を締結した顧客との間で、解約を巡り紛争が頻発し、全国で損害賠償請求訴訟等の訴訟が提起され、マスコミも豊田商事の強引なセールス手法等への批判報道を繰り返すようになったこと、その頃から、豊田商事従業員の内部告発がなされたり、同社の本件商法について注意を促すPRを通産省において行ったりするようになったこと、そして、国会においてもそれ以後豊田商事の商法の問題性が取り上げられるなど、豊田商事の本件商法の欺瞞性はマスコミを通じて広く喧伝されていったこと、昭和五九年三月には、「豊田商事は、実際は顧客との取引高に相当する金地金を保有していないうえ、客から受け取った現金を営業経費に注ぎ込むなど経営が思わしくないのに、これを隠して勧誘したのは詐欺罪と出資法違反罪に当たる」として豊田商事が告訴されたこと、同年一一月には、顧客から豊田商事に対する損害賠償請求訴訟のために、京都支店の金の保管台帳の証拠保全がなされたこと、右のようなマスコミ等からの批判に対し、豊田商事は、明確な根拠に基づく反論をする訳でもなく、まともな対応はしなかったこと、昭和五九年一月号の豊田商事の社内報には、既に従業員自らが、豊田商事の商法への疑問や不安を持っていたことを窺わせる短文や捜査当局の摘発を予感していたとも受け取れるイラストが掲載されていたこと、また、営業社員の中には、勧誘にでかける際、セールスマン同士で「さあ、今日も騙しに行こか」などと自嘲し合い、豊田商事の商法に疑問を感じながらセールス活動をしていたり、新聞記事を見て不安を感じ、退社していった者もあったこと、しかるに、被告らは、いずれも、豊田商事が破産宣告を受けるまで同社に勤務し、本件商法に従事していたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四) 以上によれば、被告らは、純金ファミリー契約が、金地金の現物の裏付けのないものであり、将来、金地金を償還することが著しく困難ないし不可能であって顧客に損害を及ぼす危険性が高い契約であることを確定的ではないにしても認識していたと推認することができる。仮にそうでないとしても、通常の注意を払えば、容易に右のことを認識し得たというべきである。しかるに、被告らは、前記のような豊田商事のセールス手法に従って金取引の知識のない顧客に対し、金地金の購入を勧誘し、最終的には、純金ファミリー契約を締結させていたのであり、被告らは、一体となって、違法な本件商法を推進していたものと認めることができる。

2. 被告加藤、同杉原及び原告大杉に対する被告鈴木の営業担当社員としての責任について

(一)  右被告らは、前記のように純金ファミリー契約が、金地金の現物の裏付けのないものであり、将来、金地金を償還することが著しく困難ないし不可能であって顧客に損害を及ぼす危険性が高い契約であることを認識し、あるいは認識し得たのに、前記のような欺瞞的な豊田商事のセールス手法にしたがって、被告鈴木は他の営業社員とともに原告大杉に対し、被告加藤は他の営業社員とともに原告小林に対し、被告杉原は原告村山に対し、それぞれ金地金の安全性、有利性のみを強調し、執拗に勧誘をして、純金ファミリー契約を締結させたのであり、右のように契約を勧誘して締結させること自体違法であると認められるうえ、前記三2ないし4で認められる各事実に照せば、その勧誘方法も社会的相当性を逸脱した違法なものというべきである。

(二)  よって、被告鈴木、同加藤及び同杉原は、民法七〇九条に基づき、右原告らが、本件不法行為により、被った損害を賠償する責任がある。

3. 被告竹本及び同鈴木(原告大杉を除くその余の対応原告らに対する関係)の管理職としての責任について

(一)  被告竹本が、昭和五九年九月一日から豊田商事の破産宣告の日まで同社の京都支店の支店長であったこと、被告鈴木が、昭和六〇年二月一日から豊田商事の破産宣告の日まで同支店の課長であったことは、前記一で認定したとおりであるところ、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  京都支店の支店長は、同支店の営業全般を統轄してその営業活動に従事し、その支店の売上げについて責任を負い、同支店の部長、課長等を集めて、営業方針、営業活動についてミーティングを行ったり、新入社員の研修を担当し、前記のような豊田商事のセールス手法を周知徹底させていた。

(2)  同じく課長は、担当課の営業についての管理をし、その売上げについて責任を負っていた。課長は、部長から面談用紙を受け取ると、これに基づき、営業社員に訪問先を指示し、課長は、支店に残り、営業社員の行動予定一覧表を作成し、営業社員が、出先からかけてくる電話連絡によって、その行動を管理するとともに、営業社員の連絡によって、後から、顧客宅へヘルプに行ったり、営業社員が、顧客先から、電話をかけてきて、キャッチボールという煽りの手法を利用するときは、その相手方を担当し、事務所に連れて来られた顧客の応対をして純金ファミリー契約を勧誘し、これを締結させ、また、顧客から苦情ないし解約の申出があれば、解約を思い止まるように説得することなどが主な職務であった。

(3)  京都支店には一人の部長の元に、課が二つあり、一課と二課に分れていたが、両課は、同一の部屋の中で、同じ職務を行っていたのであり、その違いはノルマの額であって、売上げの良い方が、一課の課長となった。そして、月別の売上げによって一課と二課の課長が交代し、営業社員も課を替わったりした。

(4)  支店長は、支店の売上げについて責任を負い、ノルマを課せられたが、その半面、支店長は、基本給の他に同支店の売上げを豊田商事で定めた基準に従って修正した金額の一パーセントを歩合給として受け取り、また、ノルマを達成したときにも賞金を受け取っていた。課長も同様であって、担当する課についてノルマを課せられる半面、基本給の他に担当する課の売上げについて歩合給を受け取り、賞金も支給された。

(二)  豊田商事の本件商法は、前記のように組織的に一体としてなされていたのであるが、被告竹本及び同鈴木は、京都支店の管理職として、他の管理職とともに前記1のような認識を持ちながら、右(一)のような職務を担当し、豊田商事の本件商法を京都支店の営業社員に徹底させ、積極的に推進してきたのであり、その地位、職務内容等に鑑みれば、同被告らは、自ら勧誘した顧客のみならず、同被告らが、管理職として在職中に京都支店の営業社員の行った勧誘によって、被害を受けた顧客に対しても民法七一九条の共同不法行為者として、当該営業社員とともに損害賠償義務を負うというべきである。よって、被告竹本及び同鈴木は、各対応原告らが、本件不法行為によって被った損害を賠償する義務がある。

五、損害

1. 実損害額

前記三で認められる各事実によれば、原告らが実際に出捐した金額(ただし、原告滝井については、豊田商事に交付した金地金三・五キログラムの交付時における時価を被害額算定の基準とする。)から返戻額を控除した残金は原告らが実損害額として請求する別紙被害一覧表の被害金残金欄記載のとおりの金員以上と認められるから少なくとも同金額が実損害額となる。

2. 慰謝料について

(一)  豊田商事は、金投資に殆ど縁のない老人や家庭の主婦を主に対象にして前記のような巧妙悪質なセールス手法を駆使して大規模かつ組織的に違法な本件商法を推進してきたものである。

(二)  原告らは、前記三によれば、その殆どが、一人暮しの独居老人であって、本件被害により、老後のために今まで苦労して蓄えてきた貯蓄の殆ど総てを短期間のうちに奪われ、豊田商事の破産手続における配当金も後述のとおり僅かなものであり、今後確実な収入の道のない原告らは途方に暮れている。

(三)  また、本件商法における勧誘方法は、前述のとおり、社会的相当性を逸脱した違法なものであって、そのため、原告らは、住居の平穏を乱され、欺罔、威迫等を伴う長時間の執拗な勧誘によって、多大の苦痛を被ったことも認められる。

(四)  しかも、原告の中には、原告滝井のように本件被害によって、精神に異常を来し、現在療養中である者や、原告竹林の被相続人亡俊子のように本件被害を受けたことの無念さを抱きながら死亡した者もある。

(五)  以上に照せば、原告らが本件被害によって受けた精神的苦痛は、財産的損害が賠償されただけでは、充分には慰謝されないというべきだから、被告らは、別個にその精神的苦痛を慰謝すべきところ、前記被害状況等に照せば、その慰謝料としては、別紙被害一覧表の慰謝料欄記載の各金員をもって、相当と認める。

3. 弁護士費用について

原告らが、本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人らに委任し、相当額の報酬の支払を約していることは弁論の全趣旨によって認められるところ、本件事案の性質、事件の経過、認容額等に鑑みると、原告らが、本件被害による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は別紙被害一覧表の弁護士費用欄記載の各金員が相当である。

4. 配当額の控除について

〈証拠〉によれば、原告らが、大阪地方裁判所昭和六〇年(フ)第七六九号破産事件において、昭和六二年九月八日別紙被害一覧表の配当額欄記載の金員の配当を受けたことが認められるので、同金員を右被害額から控除すると、同表の請求金額欄記載の各金員となるから、被告らは、同金員を賠償する義務がある。

六、結論

以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鐘尾彰文 裁判官 彦坂孝孔 裁判官高橋善久は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 鐘尾彰文)

〈以下省略〉

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